Category 2019-2023


今はベルギーデイナンにいる。
マストリヒトでのシェーンベルグ「浄夜」の後、家に2日、その後ここにやってきた。
3年前のコロナ禍のヒマ〜〜な時に依頼を受けた。「なぜ私?」と聞くとプレジデントのア
ラン・クレパン氏が「サキソフォーン以外の楽器の人の音楽的意見を尊重したい。来てく
れたら大変光栄です」
サキソフォーンはアドルフ・サックスの生誕地ベルギー・デイナンで生まれた。その後フ
ランスで有名になった。このベルギー生まれでフランスで有名になる、はよくある話でジ
ャック・ブレルもベルギー人だがフランスシャンソンの大御所だ。
アメリカの元大統領クリントン氏もサックス愛好家でベルギー滞在中にここを訪れたとも
聞いた。


何だか面白そう!


その「面白そう」に引きずられて今まで生きてきた私にとってその直感を試す意味もあり
やってきた。
今はこのコンクールのレベルの高さと運営の素晴らしさに感嘆している。
サキソフォンコンクールでは世界一なのだそうだ。200名近い応募の中100名近くまで絞り
、私が参加したセミファイナルでは18名が演奏した。日本人も5名含まれている。他にロ
シア、フランス、イタリア、ウクライナ、ポーランド、などから出場している。
審査員はなんと16名!私一人「部外者」の他に彼女の曲が課題曲に選ばれて18回聞く羽目
になったニーナ・センクもソロベニアからやってきた。


以前サキソフォンの生徒にレッスンをしたことがある。フランクのソナタを見て欲しい
・・と言われ興味半分で聞いてみたのだが旋律を奏でる際のヴィブラートもフレーズもヴ
ァイオリンに似ていると思った。これなら私でも審査できるかな?と思ったのだが・・
何しろ全く知らない曲ばかりだ。それに奏法もまあ色々ある事!舌を使って何やら打楽器
のよう?高音ですすり泣く声はうちの犬がおねだりの時よくやるなあ?重音を吹けるなん
て知らなかった!時に消防車の様だ。その上全て楽譜を見ながら聴いていてもEs管、B
管というのはなんとも譜読みが大変で、ピアノパートかリズムを追っていくのも何しろ速
くて!
その上日本から審査にいらしている井上麻子先生によると「ドビッシーが古典です」とい
うので全ての曲はそれ以後に書かれている。
ヴァンサン・ダヴィッドの曲が多い。綺麗なソナタやら超絶技巧やら、フィリップ・ルル
ーの協賛者にクロード・デランジュ教授がいる。その人がちょうど私ぐらいの歳でカフェ
でコーヒー飲んでた・・・と後から麻子さんに聞き「え〜living composerなの?」ときく
とそうですよ。サックスは何しろ新しい曲ばかりです。それに曲の数もまだ少ないという。


私たちにとってバッハ・ベートーベン、ブラームス、シューベルト・・・ストラヴィンス
キーだってもう亡くなっているわけで隣のおじちゃんの曲弾く?環境とはだいぶ違うなあ

楽器も管楽器の中では一番新しく、色々改善されてできたもの、かつまだまだ改善の余地
のある楽器だと隣の楽器屋さんが言ってた!
300年前の木でできたヴァイオリンという楽器を使う世界とはまた違う。
しかし若者の熱気、才能、国境を越える音楽を改めて感じた。

ロシアから3名がファイナルへ。日本人2名、そしてイタリア人1名という6名が金曜、土曜
本選に進んだ。


個人差はもちろんあるものの以前ヴァイオリンの世界にあったロシア式、フランス式の様
な違いも垣間見た。奏法というよりどこに重点を置いているか?が興味深い。ある候補者
のピアノ伴奏はチャイコフスキーコンクールで2位になった人だった。ずっと一緒にやっ
てきたからとわざわざこの日のためにここデイナンにきてくれたらしい。ピアノといえば
伴奏者の大変さも並大抵ではない。曲も難しいし、奏法も色々あるし・・


分野は違えど音楽は同じ。審査員同士では話が弾む。もちろん美食の街ベルギーならでは
の料理に舌鼓を打っている事も含めて!


金曜、土曜とファイナルが楽しみだ。


             2023年11月デイナン、ベルギーにて