61歳になりそろそろ世にいう定年も近い。ヨーロッパの学校では65歳かな?たいてい2-3年延長しているがそうなると若い人の登用が難しくなる。教えることは経験がものを言うのでなかなか難しい選択だ。
ソリストの生活はいつもデビュー。
何回弾いても怖いベートーベン、メンコン、モーツアルト・・・それを弾くのは毎回新鮮な緊張、デビューだ。昔ルドルフ・ゼルキン先生は「デビューが怖い」と言っていた私に「演奏会はいつだってデビューだよ」とおっしゃった。彼はその時80歳、近づけば近づくほど驚かされる驚愕のソリスト生活だ!
アルゲリッヒ78歳、チャイコフスキーのコンチェルトをこなす・・・あのオクターブもなんのその!人生の指針を目の当たりに出来る私は幸せ者だ。
演奏会がない時もある。ある時はそれが数か月に及ぶ事もある、いわゆる「引退」。
私が40年近く演奏活動をやってきて一番長く休んだのは二人目、左門が生まれてから半年間だった。いやはやあの時の大変さは他に類を見ない。勿論ソロ生活の質とは180度違う、いわば肉体的疲労困憊とそして何より自分のまわりの社会が変わる。同年の子供を持つ親たちだったり、何より子どもの世界にどっぷりつかった。毎日外だったのでそのころの写真はエリザベート審査員やってるときも土方焼けしてる!
そのあとどうやってまた「デビュー」をしたのかは忘れてしまったが、いつもいつもデビューと引退を繰り返していると定年という言葉もあまりピンと来ない。
やめてどうする?好きな事する?これも毎日の生活の中で取り込まれているのでさして熱望している事もないなあ~
以前シルクロードを旅する、と思っていた。ヴァイオリニストをやっていなければシルクロードを発掘する考古学者と若い頃読んだ「タクラマカン砂漠」「さまよえる湖」などに心が躍ったものだ。
数年前家族4人唯一のヴァカンスでトルコ、それもアンタリアからコンヤ、カッパドキアとワクワクしながら旅をした。眼が東洋を向いたらその先にはシルクロードがある!
しかしながらそれも夢でおわっている。
昨年訪れたスイス・シオン、その山歩きに素晴らしさにそこに住みたくなった。標高1000メートル未満で葡萄畑が広がる。遠くに雪をかぶったアルプスの頂が見え隠れする。喉が渇けばちょっと葡萄を口にする。甘いの、少し辛口・・・もちろんワインもおいしい!フランス語ができるのもスイスというなんとなく上流階級で近づきがたかった感覚を薄れさせてくれた。
母はよく高尾山まで一人で電車に乗り上まで登ってお参りしてきた。月の最初に行っていた。
今彼女が家にいたときと同じように独り台所で食事を作り山のテレビなどを見ながら送る生活はまさに引退・・の部類なのだが、この先どうしたら?という計画もない。大体どこにいるのかもわからないな~
その時々の感動を基本にして、「やりたい!」だけが唯一の保証で。怖さも喜びも生きて行こう。
人はだんだんひとりになる。だからこそ家族、友人に感謝です!
2019年7月4日東京にて