Category 2019-2022

パガニーニのキャプリスを昨年4月からまた練習し始めた。ほぼ40年ぶりの事だ!

「まだフルコースやってんの?」とあきれ顔の旧知の友人の言葉に思わず大笑い。

フルコースとはコンクールを受ける場合のレパートリーを含むパガニーニのキャプリスに始まってバッハのソロソナタ、それに大きなコンチェルト、ヴィルチュオーゾのヴァイオリン小曲集などだ。だいたい学生生活やコンクール生活が終わるとパガニーニは却下され、バッハは遠のき、あとはその人のキャリア次第でオーケストラの曲の譜読みに入ったり、室内楽の数知れない名曲たちとの遭遇となっていく。私は逆にオケで第九も弾いた事もなければブルックナーもシュトラウスも知らない!ルツェルン祝祭オケを聞きながら「ここでなら弾いてみたいな~」と思ったけどやはり恥かくのはやめておこう・・・

さてパガニーニをさらいだしたきっかけは?マストリヒトの試験だった。生徒達の演奏を聴きながら先生仲間のボリスと米元響子さんといろいろ話をする。その中でパガニーニの4番の話になった。24曲あるキャプリスの中でも一番難しい。長い、3度に10度に超絶技巧が連続してある。ボリス・ベルキンはソビエト時代これを一年さらったという、毎日毎日・・・・「it needs time」とは彼の言葉だ。ボーイングも然り、焦ってもダメだ。

彼はその後チャイコフスキーコンクール優勝させてあげるというお国のお墨付き?をもらいながらも、その1週間前にプラスチックの袋ひとつで亡命した!それ以来23年ソビエトに帰らなかった。母親の死に目にも会えなかったという。亡命先はイスラエル。そののちアメリカにわたりアイザック・スターン、レナード・バーンシュタイン達の薫陶を受け世界的に売り出していった。彼の弾くちょっとメタリックな、しかしはがねのようなショスタコーヴィッチ、パガニーニ、そしてプロコフィエフの一番のコンチェルトは今でも覚えている。いまどき音を聞いただけで識別できるヴァイオリニストは少なくなった。

私達は80年代ロンドンのエージェント、ハリソンアンドパロット事務所のジャスパー・パロットのただ二人のヴァイオリニストだった。

当時はお互いソロキャリアで旅行も多く接点も少なく、時折ロンドンで金髪の素晴らしい奥様を連れ歩く後ろ姿をお見かけしたのみだった。その後彼はリエージュ、私はブリュッセルという同じベルギーに住みながら会う事もなかった。

それがこのところ7年ほど前から、行き来が始まり、ついには彼の教えているマストリヒト音楽院で私も教える事になった!生徒達も行き来があり試験はいつも一緒に行う。

米元さんは彼の弟子だったが今や立派なプロフェッサー。生徒の数も多い厳しい先生だ。頑固なほどのヴァイオリン一徹生活で彼女の醸し出す世界は素晴らしい。つい最近出したイザイのCDもかなり音響を押さえた中でのストイックともいえる奏法、あの超絶技巧曲6曲を良く演奏したものだと感心した。

ボリスのロシアスタイルと私の持っている音楽とどれだけ違う事か!と思いきや、モーツアルトでもブラームスでもテンポもフレーズ感覚もよく話しが合うのだ!さすがに名だたるオケ、指揮者とソリストをやってきた人は違う!オケのテンポ、どこを出したらよいかどこで引っ込められるか?どこが一番難しいか等。またあそこのフィンガリング?あそこのボーイング?ヴァイオリン馬鹿の話はつきない。

昨年は一緒にバッハのダブルコンチェルトを弾いた。その時コンマスをやってくれたのが米元さんだった。そんな仲間がいるから楽しい。励みになる。ボリスは71歳の今も新しいレパートリーに毎年挑戦してる。昨年はブルッフのスコットランド幻想曲だった。それを今度はサンクトペテルスブルグ大ホールで演奏するという。ヴァイオリン界で数少ない演奏年数が長いソリストだ。仙台国際コンクールの審査員でも来ていただいた。

マストリヒトで教えている彼の部屋をのぞくと本当に小さい子を手とり足取り教えている。

こうやって歴史は繋がっていくかな?と感動した。

話を戻してパガニーニのキャプリス。前記したように私はコンクール以来40年近く弾いていない。恐る恐るさらい始めてみた。最初の5つ、そのうち3つ・・そのうち1つ・・・・突き詰め方を習得するまで1年以上かかったなあ~

そのうちまた増やしていく・・・シューマンのピアノ伴奏付きもやってみた。偶然昨年ティボールヴァルガジュニアのコンクールで弦楽合奏伴奏でやったのを聞いてそれも試してみた。実際やってみると!当たり前の話だがコンチェルトなみに弾けてないとお話にならない。その事がわかっただけでもよい。

「なにが難しいか聴衆にはよくわからないし、骨折り損のくたびれもうけ」と言う声もあったが私にとっては。難しさがわからないとは一番の誉め言葉ではないか!難しいものをやさしく・・・こそが粋な世界だと自らに言い聞かせつつ・・・

考えてみればバッハもモーツアルトもブラームスも40年弾いているけどパガニーニは再会したばかり?

なんだかすこ~しだけ、ほんのすこしだけ面白くなってきた!

                      2019年9月10日ブリュッセル

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